遠くの眼鏡


ボヤけている。あんなにクリアだったのに、腫れた瞼と乾いた空気で曇った眼鏡をかけているようだ。曇りはうまく拭えず、眼鏡は薄い膜になる。
一日ごとに薄い膜を一枚重ねて、靄が濃くなっていく。膜の薄いところしか今はもう見えない。見えないものはいつか、見えなくなったことも忘れて消えていく。消えたようになる。

曇った眼鏡をかけた彼は、そのように日々を重ねることに躊躇もなく、堂々と一歩を踏み出して行く。

その背中を私は霞んだ目をこすって見つめていた。今はもうボヤけている。