知らないでいて


「私なんかは大した人間では無いですよ。」
とゆるりと言った彼女は、
理解できない人、理解できないことに対して話すとき、見えない眉間にシワがよる。
絶対認めない、絶対許さない。嫌悪。
そんな感情をこめて、いかに彼らが正しくないかを話す。
「私以外はみんなゴミのように思っている。」
まるでそう言わないと自分が認めてもらえないとでも言うように。


どうしてそんなに否定するのかと、考えてみたが、私にはそれが「どうかこんな私を否定して」「どうかこんな私に答えを頂戴」と泣いているようにしか見えず、彼女の嫌悪を感じると時々何も言えなくなってしまう。どうして、と聞いてみる口を忘れる。感情に目を、口を奪われる。



そんなに悲しいと言わないでおくれと、悲しくなっては私もまた同じ顔をしていたのだろうかなと、彼女のいない部屋で一人ぽっかり広がった穴を見つめている。