心を奪われる


悲しかったんだ。ポツリと溢す。
今思えば。今思えば、ああもうあなたには付き合っていられない、と放り投げて、そのくせ笑顔で何もなかったようにコンニチハ、なんて挨拶してきたことに、怒ることさえ出来なくなった僕は、やっぱり悲しかったんだと思う。

僕の目にあの子は美しかった。
途方もなく綺麗な顔をして、綺麗な心を持て余しては、時折ひどく自分を嫌った。僕はそんな彼女を見るのが嫌だった。彼女は、常識にも長けて、周囲からの目にもとても気を配っていた。どう見えるか、どういう自分でいるか。時にそれは僕の目には不可解で、彼女が何を恐れているのかとうとうわからなかった。

でもそんなことはどうだってよかった。僕は、理由なんて、そんなに要らなかったよ。

涙も流さず泣いて恋を失っていくのは珍しくはないが、こんなに胸が痛いとは。初恋よりタチが悪いと思わないか。