焦がしたのは私


大丈夫なわけないじゃない。そんな風に言われて。大丈夫なわけない。
相手に悪気がない?そんなのねえ、あなたが大丈夫かどうかには全然関係ないのよ。彼女が言った。

ここは薄暗く影の濃い部屋で、一つだけある暖炉はオレンジ色の火を燃やして私たちの影を揺らす。家具は焦げた茶色で、テーブルが一つ、椅子が二つ。火と灯りと影はその横で遊ぶ。私たちは椅子に座って話す。

彼女が続ける。あなた、また笑った。そうやって、ごめんなさいって笑うのやめなよ。悲しかったんでしょう。腹が立ったんでしょう。なら笑うのやめなよ。

遊んでいる火に目をやって私は言う。でも、あの人も私も精一杯やったわ。精一杯やって、それでもうまくいかないってどちらかが思ったら終わりなんだよ。私はその自然な別れに動揺している。それだけ。ただあの人が、あの人たちが皆、独りでコイントスして決められなかっただけ。それだけよ。

嘘つき。あなたがそれだけって言ったことは、全然それだけで済むことじゃない。私だったら怒ってる。だってコイントスなんて一人でやることでしょう。どうしてあなたの手を使うの?勝手よ、そんなの。そんな落ち着いた顔して、悲鳴をあげたいんなら、ここでぐらい泣いたらいいのに。それくらい黙っておいてあげるのに。彼女はそういってグイとコーヒーを飲む。

ありがとうね。そう言って私もコーヒーに口をつける。苦いな、と思う。
だってね、私は怒れなかったの、あの日あの時に整理をつける時間は無かったの。もう終わってしまったの。終わったことに気づいてしまったのよ。だから、いいの。

彼女と私は席を立ち、ゆっくりと焦げ茶の部屋を出て行った。まだ火は踊ることをやめられずにいた。